Print-Techがもたらす豊かなユーザー体験
情報・技術の革新に伴い、クラウドやデジタル決済など、私たちの生活は便利になりました。しかし、これらの技術革新は、デジタル技術に限ったものだと思っていませんか。実は、デジタルとアナログをつなげる方向での技術革新も、近年急速に進んでいます。印刷技術の革新もそのひとつです。近年のデジタルテクノロジーを利用した印刷技術の革新のことを、特にPrint-Techと呼びます。このPrint-Tech を上手に利用すれば、これまでとは比べものにならないほど効果的に、印刷物をビジネスに利用することができるのです。
そもそも、X-Techの動きは、2015年頃から始まりました。株式会社NTTデータ経営研究所が2017年に発表した「企業のX-Techビジネスの取り組みに関する動向調査」では、次のように定義されています。
「その業界内部の企業のみならず業界の垣根を超えてきた異業種やスタートアップが、『業界の知見』とデジタルのような『洗練されたテクノロジー』をコアとして創り出す、今までの常識を打ち破るような新しいサービス・製品」
つまり、既存の業界に最新のテクノロジーを組み合わせ、新しい価値を提供するようなサービス・製品だと言えるでしょう。
Print-Techとは
Print-Techは、「Print(広告)」と「Technology」をくみあわせた造語です。
インターネットの普及に伴い、紙媒体の広告よりも電子媒体の広告の方が重要であるという認識が生まれつつあります。その流れの中で、大量の情報をリアルタイムに処理し、最適化された広告配信を行うサービスが生まれてきています。
従来からある紙媒体でのマーケティングにおいても、このような流れを汲んで技術革新が行われています。すなわち、ITとデジタル印刷技術を組みあわせ、デジタルと同じタイミングでの施策が可能な技術が生まれているのです。しかも、紙媒体は人間の五感に刺激しやすいという強みもあります。
印刷業界は20年以上も前からDTP(デスクトップパブリシング)と呼ばれる方法で印刷を行なってきました。DTPとは、PCで印刷データを作成できる技術であり、ある意味ではX-techに近い考え方で変化してきたともいえるかもしれません。
ITの技術進歩もあり、現在では更に早く出力することが可能となりました。その結果、デジタルでもフィジカルでもほぼ同じ速度で出力可能になりました。この変化は、マーケティングや販促においても大変有意義に活用可能です。
デジタル印刷で小ロット・個別印刷が可能に
これまでは、ビジネスプリントといえば、大量のロットでの一括発注が基本でした。全く同じ印刷物を、何百・何千、あるいは何万部という単位で印刷するスタイルです。
これは、印刷の際、「版」と呼ばれる原版を作成し、それを複製する形で印刷を行なっていたからです。この「版」を作成するために原価がかかるため、大量に発注しなければコストが大きくなってしまうのです。
しかし近年、デジタル印刷の登場により、このスタイルに変化が訪れました。
デジタル印刷とは、簡単に言うと、デジタルデータからそのまま印刷する技術です。そのため、従来のように「版」を作成する必要がありません。
「版」の作成費用がかからないため、小ロットでの印刷であっても、原価が高くなってしまうと言うことがありません。そのため、ビジネスプリントにおいても、小ロット・極小ロットでの発注が現実的になったのです。
Print-Techで、企業・ユーザーに効果をもたらすデジタル(バリアブル)印刷とは
デジタル印刷で小ロットでのビジネスプリントが可能になったということは、大変な意義があります。それは、配布先に合わせた個別の内容を設定し、印刷することができるということです。
例えばこれまでは、紙のダイレクトメールを送付しようと思った場合、対象の顧客すべてに全く同一の内容を印刷して送付する、というスタイルが主流でした。これは前述の通り、同一の内容でなるべく多く印刷した方がコストを抑えることができたためです。
一方この新しい技術を利用すれば、小ロットでもコストは増えません。そのため、顧客の属性や購買行動に合わせて、異なる内容のダイレクトメールを作成することができます。
また、印刷物の一部だけを変えて何枚も印刷するサービスを行なっている企業もあります。ベースとなる全体デザインやメインの内容はそのままで、例えば送付相手の名前を入れたり、購買行動をもとにしたおすすめ商品情報を入れたり、といった具合です。
このように、データを元に自動で内容を差し替えて印刷する技術のことを、「バリアブル印刷」と言います。この技術を上手に使うことで、自社の伝えたいことと顧客の知りたい内容をマッチさせた、その人だけの効果的な印刷物を作ることができます。
体験型コミュニケーション(D2C)においては、企業(本部)から店舗に投入される販促物は、ユーザーに対しより強い印象を与えるものである必要があります。つまり、最適な制作物を最適な内容、最適なタイミングや数量で届けることが必要なのです。その結果、アフターデジタル下での新たなユーザー体験を醸成させることに繋がるのです。
さらに、最近話題になっているSDGsやサーキュラーエコノミーの観点からも、デジタル印刷の技術で作り過ぎによる在庫費用や廃棄物、廃棄費用などを削減することができます。それらは企業収益においても大きなインパクトをもたらすことになります。
実際に行われている取り組み
この新しい印刷技術を用いれば、全く新しいユーザー体験が可能となります。顧客情報を元にしたデジタルマーケティングと組み合わせれば、より効果的な施策が可能でしょう。
前述したダイレクトメールとしての使い方以外にも、すでに様々な取り組みがなされています。
例えば、通信販売で購入された商品を送付する際に、納品明細を封入している店舗は多くあります。この明細書に、顧客ごとに商品紹介(レコメンド)を印刷するという取り組みがあります。
既に購入している商品を手に取る時は、関連商品への関心や欲求が高まるタイミングでもあります。その顧客の属性や購入商品の情報、あるいは購入に至るまでのページ閲覧履歴などはデータとして取得可能ですから、より効果的な訴求となります。
あるいは、不特定多数に向けたエリアマーケティングにおいても活用されている事例があります。
たとえばある企業では、国勢調査のデータを用いて地域ごとの年齢層や年収・世帯人数などの傾向を分析し、そのデータを元にエリア毎に異なる内容の印刷物を用意しているそうです。
ポスティングやチラシの配布を行う場合であっても、マーケティングに基づき、より効果的な施策の検討ができるということです。
デジタルとアナログの境界のない未来へ
デジタルマーケティングの強みとして、顧客に合わせた個別対応が簡単に、あるいは自動でできるという点は大変大きいです。デジタルマーケティングとは、顧客ひとりひとりに合わせたオーダーメイドマーケティングということができます。一方、印刷物を利用したマーケティングにおいては、大量に同じものを作成し、個別対応が困難というデメリットがありました。
しかし、印刷技術の革新に伴い、デジタル印刷においてもパーソナライズされた成果物の作成が簡単に行えるようになりました。そのため、アナログマーケティングにおいても、デジタル並みのオーダーメイドマーケティングが可能となります。
現代社会において、デジタルとアナログの境界線はどんどん薄くなっています。インターネット上で購入した商品を自宅で受け取ったり、店舗での商品購入の際キャッシュレス決済を利用したり、といった具合です。マーケティングにおいても、同様です。これからの時代には、デジタルとアナログの境界なく、すべてを包括した上で、そのシーン・顧客に最も合った施策を検討していかなければいけません。
その取り組みにおいて、印刷技術の革新・新しいサービスは企業活動の強い味方となっていくことは間違いないでしょう。
紙メディアは古い上にコストがかかるというイメージを払拭し、新たなメディアとして確立させる可能性もあります。このメディアは、ユーザーには豊かな経験を、企業には高い宣伝効果をもたらす、強いメディアであり、今後も更に成長する可能性を大いに秘めています。