「デジタルは環境を破壊している」という矛盾
「デジタル技術は環境破壊につながっている」と言われたら、「え?」と首を傾げる人が多いのではないでしょうか。デジタル技術を活用することでゴミは減少し、エネルギーの効率的な運用が可能となり、結果的に環境が守られる。そのような論調で語られることの方が、圧倒的に多いためです。
それでは、この主張はまったく的外れなのでしょうか。
残念ながらそうとも言い切れない実情が浮かび上がってきます。デジタル技術が発展し、私たちの生活に深く根付く現代において、デジタル技術があるからこそ起こっている環境破壊は本当に存在しているのでしょうか。
そうだとしたら、それはどのようなものなのでしょうか。
デジタル技術は環境破壊している?
まずは、イメージしやすい例からご紹介します。
デジタル技術の革新により、EC(イーコマース)やシェアリングサービスが生まれました。ECを活用することにより実店舗の運営に伴うエネルギー消費が削減されますし、シェアリングサービスを活用すれば、個人所有の場合よりも利用されない間の無駄や最終的な廃棄物は減少すると言われています。これだけ聞くと、環境に良い影響を与えているように見えます。
ここで問題になってくるのは、実店舗がないということは、利用者に商品を届けるために梱包と発送が必要となるという事実です。インターネットを通じて商品を購入したところ、何倍もの量の緩衝材に包まれ、巨大な段ボールに入った商品が届いた経験はありませんか。
商品を安全に届けるため、梱包や保護が過剰となり、無駄な資源を使ってしまっているという例はよく目にするものです。
また、消費者の手元へ商品が届くまで、運送に関わる資源コストもかかっています。
デジタルデバイスの大量消費・大量廃棄問題もあります。
デジタル技術の革新は目まぐるしく、それを活用するためのデバイスの新陳代謝も大変活発です。スマートフォンやタブレット端末は毎年最新機種が発売され、それがいかに優れたものであるかをPRしています。
ユーザー側としては、何年も同じ端末を使い続けることが、デジタル技術の進歩においていかれることのように感じられるでしょう。その結果、手元にまだ十分に動く端末があるにも関わらず新機種を買い求め、古い端末は廃棄もしくはリサイクルされます。
リサイクルには、リサイクルを行うための資源が必要となります。また、ユーズドショップで新しい利用者を探そうにも、店頭には多くの在庫が並び、古い端末は思うように売れない現状があります。
当然ながら、デジタル技術を利用するためのエネルギー問題もあります。デジタル技術を活用するためには、電力をはじめとしたエネルギーを使用する必要があります。紙の本であれば一度購入すれば半永久的に楽しめたものが、電子書籍を購入した場合、それを読むためにはデバイス自体やWi-Fi機器の電力、コンテンツ提供側のデバイスやネットワークの保守・運用に関わるエネルギーなど、多くのエネルギーが必要となります。そして、これらのエネルギーはその作品を読むたびにかかり続けるのです。
環境を守るために活用されているデジタル技術もある
一方で、現在起こっている環境負荷の問題を解決するためにデジタル技術が活用されているという事実もあります。
例えば、発電に関してもそうです。クリーンエネルギーと呼ばれる風力発電や太陽光発電においては、効率的に発電を行い、またその電気を有効に活用するため、IoTやAIの技術が活用されています。天候の予知や過去の電力使用量の傾向をもとに、効率的かつ無駄のない発電を行うためです。あるいは、大規模農業や畜産業などにおいては、限りある資源を有効に使うため、水やエネルギーを無駄なく利用する必要があります。そのため、デジタル技術を活用して高度な計算が行われているのです。
個人の生活レベルにおいても、多くのデジタル技術が環境問題の解決に向けて生まれています。食品廃棄を最小限にするため、スーパーや飲食店で出る廃棄直前の在庫情報をシェアし、ユーザーに安価で提供するアプリは全世界で人気を集めています。
あるいは、電子メールやSNS、アプリを活用したPRが一般的となり、従来であれば大量に印刷され大量に廃棄されていたダイレクトメールやチラシといった印刷物はその量を大きく減らしました。これらの情報は必要な時は一瞬で、その期間が過ぎると廃棄物となっていました。これがデジタル化したことにより、紙のムダが減り、資源が守られているという事実もあります。
デジタルは環境を破壊している、だけでもない
「デジタルは環境を破壊している」というのは、残念ながら一部において事実であると言わざるを得ません。しかし、それはそのまま、「環境を守るためにはデジタル技術を使用してはいけない」という結論には結びつきません。
デジタル技術により環境破壊が進んでいる事実もあれば、デジタル技術があるからこそ、環境問題に歯止めがかかっている事実もあるためです。
デジタル技術は、あくまで技術であり、つまりは道具です。道具は使い方によって良い結果も悪い結果ももたらします。包丁は食材を切り料理をするのに大変役に立ちますが、使い方を誤れば自分の指を傷つけかねません。
デジタル技術も同じです。この高度に発達した便利な道具をどのように使い、その結果環境に対してどのような影響を及ぼさせるのかは、それを活用する人にかかっています。
環境を破壊するのも逆に守るのも、デジタル技術そのものではありません。それを活用する人がどのように使うかで、その結果は大きく違ってきます。本当に便利な技術だからこそ正しく活用し、本当の意味で人と地球に役立つ道具としていきたいものです。