DXでバズるリアルメディア
社会のデジタル化が進むにつれ、アナログな存在は淘汰されていく…以前は、そんなふうに考えられていた時代もありました。しかし、最近のトレンドを見ていくと、必ずしもそうとは言えない流れが見えてきます。
というのも、最近、SNSなどデジタルメディアを通じて、昔流行したアナログな存在が再度大きな注目を集める、という現象が多発しているのです。
デジタルでできることがどんどん増えているこの時代に、なぜ再びアナログへの人気が高まっているのでしょうか。
現像する時のドキドキがポイント「写ルンです」
今、Instagramなど写真系SNSに、「写ルンです」で撮影した写真を投稿するのが驚異的なブームとなっていることを知っていますか。
「写ルンです」といえば、使い捨てのフィルムカメラ。高額で複雑な機材を購入しなくても、写ルンですを使えば簡単に、そして安価に写真を楽しめるとして、当時も若者を中心に大きな人気を集めていました。
しかし、カメラの廉価化やデジタルカメラの簡易化、そして何より、高機能なカメラ機能を搭載した携帯電話の普及により、「写ルンです」を含めた使い捨てカメラやフィルムカメラの需要は低迷していきました。
そんな流れに変化が起きたのがここ数年。「写真=デジタル」という意識すら持っているデジタルネイティブ世代の若者たちにとって、フィルムカメラの「現像してみるまでどんな写真が撮れたのかわからない」というドキドキ感が逆に新鮮に受け取られ、あっという間にブームを起こしたのです。
しかも、現像してできあがる写真は現在の高画質カメラとは異なり、少しふんわりとした、レトロ感のあるもの。紙に印刷された写真、ということも彼らにとっては新鮮に感じられ、人気を後押ししているようです。
現在では現像の際にプリントした写真の他、携帯電話から写真データをダウンロードできるサービスも提供され、アナログカメラで撮影した写真をSNSに投稿して楽しむ、というスタイルが確立されつつあります。
手に取れる存在感が最注目「アナログレコード」
音楽もデジタル化の流れが強く、今では音楽はダウンロードあるいはストリーミング再生でコンパクトに楽しむというスタイルが一般化しています。
そのスタイルの対極にあるのが、アナログレコード。アナログレコードを楽しむためにはまずその大きな媒体であるレコードを入手し、それを保管する必要があります。また、音楽を再生するためにも、専用の大きな機材を利用しなければいけないこともあり、決して手軽な方法ということはできません。
にも関わらず最近、アナログレコードの人気が再燃しています。その人気の理由が、「リアル感」つまり、実際に手に取り、棚に飾っておく感覚だというのです。音楽という目に見えないものだからこそ、レコードという媒体に閉じ込め、手に取ってその存在を感じるという、昔であれば当たり前だった感覚のコンビネーションが、最近ではむしろ新しく、好ましいものとして定着しつつあるのです。
このブームの流れは大きく、大手レコード会社ではアナログ専門レーベルを立ち上げ、CD世代以降に発売された音源を、レコードに焼き直すというプロジェクトすら立ち上がっているというのですから驚きです。
なぜ今、再びアナログに関心が集まるのか
これら、ある世代からしたらむしろ「今更」な存在に、今再び大きな注目が集まっているのはなぜなのでしょうか。
それには、二つの大きな理由が存在しています。
共通するキーワードは「ちょっとレトロ」
これら、人気が再燃している存在の共通点は、「ちょっとレトロ」な感覚があるということです。
今の若者は、生まれた時から「時代の最先端」に触れて育ってきた世代です。そのような世代の人々にとって、少し昔に流行したものや懐かしい感じのするもの、つまり「ちょっとレトロ」な存在が、逆に新鮮で魅力的に感じられるのでしょう。
また、デジタルの発展に伴い、マーケティングの方法も変わってきました。改めて大きな広告を打つというのではなく、何かを「良い」と思った人が手軽に意見を投稿でき、それに共感した人の中でどんどん広がっていく。いわゆる「バズる」という現象によって、これまであまり表に出てこなかった価値が見出され、認められる風潮ができてきたのです。
実際に手に取って感じる「刺激」
加えて、「写ルンです」や「アナログレコード」に関していえば、もうひとつ重要な共通点があります。それが、「リアルに手に取る」ことができる、という点です。写真や音楽CDなどは、大人の世代にとっては手に取るのが当たり前で、それが後々デジタル化されたものです。しかし、デジタルネイティブ世代にとっては、これらの存在を手に取ってリアルに感じられるというのは未知の感覚で、驚く程鮮烈な刺激なのです。
デジタルで感じる存在は、ひとつの感覚しか刺激されません。つまり、写真なら視覚、音楽なら聴覚です。これに対し、実際に手に持って感じる刺激は、五感の全ての働きかけてきます。手に持って感る質感や重さは、デジタルでは体験できないものです。これら全てを合わせて、アナログな「写真」であり、「音楽」なのです。
今まで携帯電話やタブレットの中でしか感じることのできなかった存在を、初めて手にとってその重みや質感を感じた人は、少しの違和感とともに新鮮な感覚を持ったことでしょう。その「新鮮な感覚」こそが、これらが注目され、再び愛されている大きな理由のひとつといえます。
デジタルを通してアナログがバズる現代
DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が示す通り、現代社会においては様々なもののデジタル化が進み、生活は大変便利になってきました。しかしだからといって、この時代ではアナログが不要になったかというと、そうではありません。
むしろこれらの現象からは、DXが進めば進むほどアナログの持つ価値は注目を集め、独自の存在意義を確立していくという流れすら見えてきます。
しかも、このようにして見出されたアナログの価値は、デジタルで発信されることで更に広く、多くの人に伝わり、一般化していきます。
これからの時代はデジタル化アナログか、という論点ではなく、デジタルとアナログの共存、あるいは相互補完の関係になっていくと考えられます。あるいは、デジタル・アナログという区別すらなくなり、限りなくグラデーションに近づいていく可能性もあります。
デジタル化が進むことで改めて見出されているアナログの価値。そこには、新しい文化や技術の可能性がまだまだ十分に秘められていると言えそうです。