DXにおいて力を持つ、新たな紙メディアの可能性とは
情報技術の革新に伴い、私たちの社会のあり方は大きく様変わりしてきています。政府がDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進を図るなど、国を挙げての取り組みも行われています。このような流れの中で、アナログの代表格とも思われていた印刷業界にも、技術的な革新が訪れています。
様々なICT(情報通信技術)の発達に伴い、印刷においても、デジタルと同様にリアルタイム性と個別性を持ったサービスが可能となりましました。その結果、紙のメディアは、現代に置いてデジタルマーケティングに並んで重要な意味を持つメディアとなり得る可能性が出てきました。
今回は、DX技術を利用し、紙メディアがどのようなメディアとなりうるのか、どのようにビジネスに利用できるのかを考えていきたいと思います。
DXとは
DXとは、「デジタルトランスフォーメーション」の略です。
総務省は、スウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授の言葉を借りて次のように説明しています。
『現在は、このような「ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させるデジタルトランスフォーメーション」が進みつつある時代にあるといえる』
ICTとは情報通信技術のことです。具体的にはAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)など、近年開発されている新しい技術や仕組みのことを指します。このような新しい技術を利用して、社会全体の生活を向上させる流れがDX=デジタルトランスフォーメーション、というわけです。
DXで広がる、紙メディアの可能性
デジタル技術の革新、というと画面の中のこと、というふうに感じる人もまだまだ少なくないと思います。しかし実際には、デジタル技術の革新はむしろ、我々の現実社会の方にこそ見ることができる時代となっています。
例えば、フリマアプリで購入した商品を匿名配送で受け取ることができたり、携帯電話の現在地情報を利用してワンタップでタクシーの配車依頼が完了したり。これらはすべて、ICTの革新により実現されたサービスです。
同様に、印刷業界にもICTを活用した技術革新の流れがあります。
これまで、紙の印刷物を使ったマーケティングといえば、まったく同じ内容のものを何千・何万部と作成し、無作為に配布・送付することがほとんどでした。その結果、本当に必要とされている情報が届かず、印刷物は捨てられたり、迷惑がられることすらありました。
しかし近年の技術革新に伴い、少部数からクオリティの高い印刷物の作成が可能になりました。また、データベースやAIと連携することで、顧客ごとに最も適した内容の印刷物を自動で出力することも可能です。これらの技術の登場により、紙の印刷物を利用したマーケティングは大きく様相を変えていくことになります。
紙メディアには「ニーズを生み育てる力」がある
そもそも、紙に印刷された印刷物には、デジタルよりも更に強い、顧客に対する影響力があります。一部の研究では、ディスプレイで情報を見ている時と紙の印刷物で見ている時では、紙の印刷物を見ている時の方が脳がアクティブに動いていた、という結果も見られています。(参照:印刷物は脳に良い刺激を与える!? 最新の研究が実証(前編))
紙の印刷物は、見る人により強い刺激を与え、印象を焼き付けることが可能です。
これは、テレビやインターネットがメディアとして確立した後も、雑誌や新聞広告が広告メディアとして強い位置を守り続けていることからも明白といえます。それは、これらの広告が紙のメディアの持つ強い刺激とその効果を生かし、顧客のニーズを生み出し育てているからです。
ICTをうまく活用し、本当に効果的な形で紙メディアを利用することで、顧客の生活を充実させ、自社の利益にもつながる、質の良いDXの実現が現実のものとなります。
デジタル×アナログで生まれる新しいチャンネル
近年、人々にとって、アナログとデジタルを掛け合わせることで生活はより豊かにそして便利になってきました。印刷業界においてもこの流れが届いています。
例えば、顧客データベースやそれを分析するAIと連携することにより、顧客ごとに異なるリコメンドを掲載したダイレクトメールを作成したり、特定の商品に親和性の高い顧客だけを抽出し、自動で印刷物を作成・発送するということも可能です。同一の商品を購入した顧客でも、初回購入の顧客とリピーターの顧客では異なる礼状を封入するということも。
同一内容の印刷物を無作為に配布していた際は、必要でない情報が山のように届いたり、逆に必要としている人に届かなかったりといったミスマッチは、残念ながら避けることはできません。その結果、「紙のチラシは不要」と感じられていることすらありました。
しかし、これらの情報技術と組み合わせることにより、本当に必要な情報を、本当に必要な人に、本当に必要な時だけ届けることが可能になります。
自分にとって必要、あるいは有意義な情報があると知っていれば、顧客は必ず手に取り、目を通します。それだけの影響力を、印刷物は持っているのです。そのため、ICTの活用により、紙の印刷物はまったく新しいマーケティングチャンネルとして今後注目・活用されていくことは間違いありません。
まとめ
ICTの革新と普及に伴い、アナログとデジタルを掛け合わせて実現できることが飛躍的に増えてきました。この流れは今後更に加速していくことと考えられます。
「アフターデジタル」という言葉があるように、今後、私たちの社会とデジタル世界の垣根はどんどん低くなり、いずれシームレスな社会になっていくことは間違いありません。
そのような流れにおいて、印刷物の持つ影響力と技術革新のコンビネーションは、大きな意義を持ちます。本当に必要な人に本当に必要な情報を届けることができれば、紙メディアは有効にニーズを生み育ててくれるのです。それをいかに利用し、自社のマーケティングに新しいチャンネル・新しい可能性を引き込むのかが、今後のDXの実現において大変大きな意味を持つことは間違いありません。